ボルダリングで発生しやすい外傷や障害

ボルダリングで
発生しやすい外傷・障害

自然界にそびえる巨大な岩や人工で作る壁を大小さまざまな「ホールド」で登るスポーツです。ルールや登り方により呼び名は違いますが、どれも手の先から足の先まで、さまざまな体の動きや力を利用する競技になるため、酷使する部分が多いほどケガも多く、治療に時間がかかる場合が多いです。
早期に気付き、治療・ケア・予防ができれば、長く楽しく続けられるスポーツですので、ぜひ、参考にしてください。
特に頻度が高いものを紹介いたします。

手指 手関節の腱鞘炎

トレーニング不足や手指の使い過ぎが原因とされており、準備運動や十分な休息・体調に合わせた練習が重要です。
「腱鞘」は、骨に付着しトンネルのような形を作っています。その「腱鞘」のトンネルを、指を曲げる「屈筋腱」が通り、骨から屈筋腱が離れないようにする役割があります。
腱鞘があることで、屈筋腱とつながる筋肉が収縮すると、指の関節を曲げる力になるのです。

クライミング・ボルダリングには、多くに握り方がありますが、指に最も負担がかかるのが「フルクリンプ(カチ持ち)」です。
ホールドに対して、指の第二関節を握り込み、第一関節を伸展し押し付けるように保持するタイプや第二関節も第一関節も立てるように握りこみ、ホールドから手が離れないように保持するタイプなどがあります。

「フルクリンプ(カチ持ち)」という持ち方は、屈筋腱が骨から離れようとする力が強くかかり、研究では30~40キロほどかかると言われています。

症状

指がホールドから外れたり、腱鞘が屈筋腱を支える力を超えてしまうと、腱鞘が損傷・断裂します。指の長さや位置関係などの理由で、中指・薬指に多いです。
損傷した瞬間、痛みと腫れが起こり、「ぶちっ!」と音が聞こえる場合もあります。

屈筋腱の慢性的な使い過ぎになると腱鞘が腫れたり、屈筋腱がコブのように腫れることで、腱鞘を通りづらくなりバネのように指に動きの制限がかかる場合もみられます。

筋肉が正しく動かなくなることで、握力の低下や、可動域制限がおこり、パフォーマンスに支障をきたします。

治療・リハビリテーション

損傷の程度や、損傷している場所・数により異なります。
テーピング固定や装具などで手指を保護しつつ、リハビリテーション・物理療法を行い競技復帰までケアを行います。
手指は日常生活でも使う頻度が多いため、競技復帰に2~3ヶ月程度かかる場合もあります。
重症度の高いものは、手術の対象となり、断裂した腱鞘は縫うことができないため、他の部分から腱などを採取し、新しい腱鞘を作ります。その場合だと競技復帰まで半年以上かかるとされています。

上腕骨内側上顆炎

主な発生原因は、使い過ぎによるものですが、クライマーでは基本の動きにホールドの握りこみ、保持が伴うため、疲労状態での無理な練習や体の使い方などの要因で、肘の内側に炎症・痛みを要する例が多いです。
上腕骨内側上顆炎は、上腕骨の下・内側にある骨の部位で、手指や手首を曲げる筋肉が多く付着します。
特に中指・薬指は付着範囲が広いため、ポケットホールドで中指・薬指のみで保持する場合など酷使する条件が整うと、内側上顆への炎症に繋がります。

一度痛めてしまうと、日常生活での刺激にも敏感に反応してしまうため、なかなか治りが悪いのが特徴です。きちんと炎症を沈め、継続的なストレッチや使い方の見直しなどが必要となります。

治療・リハビリテーション

炎症が強く出ている場合は、当院の物理療法でも利用している、微弱電流を使用した治療器の使用や超音波治療器などにより、組織の治癒能力を高めます。
リハビリテーションでは、上肢から手指の筋肉の状態を確認し、負荷の強い筋肉の柔軟性を高めるストレッチや運動療法を行います。

肩関節腱板損傷・
インピンジメント症候群

クライマーにみられる肩の障害は、さまざま要因があります。
・角度のついた壁を上る際に、力任せに腕だけで登ってしまう。
・準備体操などの不足により肩の柔軟性が低下した状態で酷使する。
・疲労がたまっている状態の無理な動きをする。
・ホールドしたまま脱力した際に、肩の位置が正しい位置にない状態で脱力してしまう。
など、肩関節は、可動性が大きい分筋肉に安定性を依存している構造のため、間違った使い方をしてしまうと損傷しやすくなってしまいます。

肩関節の一番骨に近い筋肉を「回旋筋腱板(ローテーターカフ)」と呼び、これらの筋肉の損傷や骨や筋肉同士の摩擦を軽減する滑液包・骨の最も近くを覆う関節包の損傷が多く、他のスポーツでもよく見られる障害です。
回旋筋腱板は4つの筋肉で構成されており、「棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋」が肩甲骨から上腕骨を覆うように付着しています。
肩関節の挙上や回旋などの役割と、関節包とともに上腕骨を肩甲骨に引き寄せ、関節の安定性を保つ役割も持っています。

これらの筋肉が炎症を起こすと、「肩関節腱板損傷」となります。
さらに、回旋筋腱板の炎症や損傷により、肩関節の円滑な動きが出にくくなることで、骨同士や筋肉の衝突が起こることを「インピンジメント症候群」と言います。

症状

肩関節を上げることが困難になる。痛みや可動域制限が顕著になる。
肩関節を上げることはできるが、下す際に痛みが伴う。
肩に力を入れると痛みがでる。
背中に手を回せなくなり、服の着脱が困難になる。
動かさなくても痛みがでる。夜間に痛みがある。など
様々な、症状がおこり、パフォーマンスの低下どころか、日常生活でも困難を要します。

治療・リハビリテーション

物理療法にて、肩関節の炎症を軽減させ、リハビリテーションにて肩関節の動きの改善・筋力改善を行います。
また。発生要因となる肩周囲の筋肉・肩甲骨の動き・胸郭や他の関節運動から肩への負担となっている部位に運動療法を行い、肩に負担のかからない動きを指導・提案して行きます。それらを練習時に生かしていただき、予防や再発防止に協力させていただきます。

背部・腰部の筋肉や関節の炎症

クライミングやボルダリングで壁からの落下時、高いところからの着地を繰り返すことで、背部から腰部に大きな負荷をかけることがあります。
着地の姿勢を誤ると、筋肉・骨などに強い衝撃を与えてしまいます。

また、壁に体を近づけることを意識しすぎて腰を反らしすぎてしまうことや、いつも、同じ方向に体を倒して上ることなども背部・腰痛の要因となります。

また、上る途中、ホールドした状態の脱力では、ただ手指以外の力を抜くだけになってしまうと、肩関節から背部腰部の筋を痛めてしまいやすく、背部の筋肉を働かせ無駄な力を入れずに肩を使うことで、肩のみにならず、腰背部痛の予防にも適しています。

間違った肩の使い方

肩がすくんでしまい肩関節に安定性がなく負担がかかっている

正しい肩の使い方

背部から脇腹の筋肉が働き肩関節が安定している

症状

ムーブの際に痛みで力が入らない、
上る際にホールドに手を伸ばすと背部から腰部に痛みが出る
壁からの着地時に腰痛が出る
一度痛みが出るとなかなか治まらない
など、体全身を使って上るクライミングやボルタリングでは腰背部に症状が出てしまうと、パフォーマンス能力が低下し、日常動作にまで支障をきたしてしまいます。

治療・リハビリテーション

どのような動き・タイミングで症状が出てしまうのかを正確に判断し、腰背部のみではなく、肩関節・股関節・膝関節・足関節など全身の動きや柔軟性を把握することで、根本的な原因を追究します。
また、普段の姿勢・体の使い方を修正・改善し、パフォーマンスに生かせる運動やストレッチの指導を行い、日々の練習に生かしていける内容を提供いたします。

足関節捻挫

壁からの着地の際に、足からマットに着地をすると足首の捻挫をすることがあります。
高いところから落ちても大けがをしないように、クッション性にとんだマットであることと、クライミングやボルダリングのシューズはつま先が狭い作りになっているのが特徴のため、つま先から落ちてしまうと高確率で捻挫を起こしてしまいます。
そのため、足からの着地の際には、かかとから着地することを意識し、足首が捻らないように意識しましょう。

リスフラン関節靭帯損傷

足の甲にあるリスフラン関節という関節に付着する靭帯の損傷で、捻挫などによる損傷が多いです。一般的な足関節捻挫(足関節捻挫参照)ではなく、つま先重心の時に過度な力が加わることで損傷しやすく、試合中に足を踏まれて転倒したなどの際にみられます。
リスフラン関節靭帯が損傷されると、荷重時に足底のアーチが低下するため歩行運動時の痛み。障害が起こります。

外側側副靭帯損傷

足関節外側にある靭帯(前距腓靭帯・踵腓靭帯・後距腓靭帯)の損傷が多く、足首を内側に捻ってしまうこと(内反捻挫)で生じます。まれに、靭帯損傷とともに骨折がみられるケースもあります。
ケガをした直後から痛みが強く、外くるぶし周囲に腫れがみられます。
損傷度が強いほど、歩行が困難なほどの痛み・腫れがみられ、放置しても完治しにくく、再発の危険も高まるため適切な処置が必要なケガです。

脛腓靭帯損傷

足関節捻挫で見逃されやすい靭帯損傷での1つで、下腿の骨(膝から下の2本の骨)にある前脛腓靭帯損傷です。
足関節捻挫で外側側副靭帯損傷に合併して損傷しているケースがあり、外側側副靭帯損傷のみの損傷と比べ、荷重時の痛みが特に強く、内くるぶし・外くるぶしを両側から圧迫すると痛みが増すのが特徴です。さらに、完治まで時間のかかることが多い損傷です。
時々、見逃されるケースがありますが、前脛腓靭帯損傷は軽くみてはいけません。

受傷直後は、RICE処置(足関節捻挫参照)が有効ですが、炎症期には、十分な固定を必要とするため、固定を外すタイミングや運動を開始できるタイミングを間違えると後遺症に発展しやすいので注意が必要です。

治療

足関節捻挫の損傷時のように、損傷状態を確認し、必要であれば、テーピング固定などを行います。

固定除去後のリハビリテーション

足関節周囲の筋力低下や足底のアーチが低下するため足趾の踏ん張る力やダッシュ力が低下します。足趾・足関節の運動機能の回復・足底アーチの柔軟性を高め維持するためのリハビリテーションを行います。
足底のアーチが低下したままだったり、足部の関節に柔軟性が無い状態でスポーツ復帰をすると、足底腱膜炎やアキレス腱炎、膝痛や腰痛などを引き起こします。

ケガをしていなくても、足趾がうまく使えていなかったりすると偏平足や外反母趾などを引き起こし、他の部位への疾患を生む引き金になる可能性もあるため、治療期間を把握し、焦らず治療することが大切となります。

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